【優秀作品】

青山 周平:Itami Refugee Capital

新村 岳広:A Water Tower

西森 文裕:@school-2023

【Concept】
 日本の難民認定法では、日本に到着した難民は、難民申請を行ってからその結果が出るまでの約1年間、難民になる前の「仮難民」として日本で生活することになっている。彼らは、正式な在留資格も、就労資格も、健康保険も持たない状態で日本社会に生活しており、適切な保護施設も、日本語教育も日本社会への適応支援もほとんど行われていない。このように「仮難民」はいわば、法、社会システム、国境概念のスキマにあるボイドである。この計画は、そのような「仮難民」を、ポテンシャルは持つが閉塞している伊丹空港に隣接した地域を難民特区(Refugee Capital)として設定し、地域社会で受け入れ、日本社会と接続する方法、そのための装置の提案である。その結果、難民たちは地域住民にとっての Capital(資本)となる。

【講評】
 本計画は、日本社会における難民による問題をテーマにし、大阪伊丹空港の隣接地に難民特区を想定し、その中でItami Refugee Capitalを計画するとともに、その地域の活性化を促すものである。難民にかかわる法律や行政や生活等に関する問題ならびに日本社会における異文化との接触に関する問題を取り上げ、非常に意味深い計画案であると評価される。しかし、難民特区がやや閉じられすぎたように思われる。具体的に、難民にとって猪名川の反対側にある日本の社会と難民特区と空港との三者の関係は充分に表現されていなかったことが残念である。地域のコンテクストとの重なりについても、より深く探究してほしかった。又、航空により高度制限や騒音により居住性について疑問が残されている。

【Concept】
 郊外における住宅やコミュニティー、またその開発に関する問題を身近なものとして感じていた。時期を同じくして彩都のオープン、通学路にあたる小野原西区画整理事業の大造成が始まった。その小野原西地区に以前から気になる巨大な構造物があった。
−「小野原配水地」−小野原の開発に先駆けて莫大な資金を投入し造られた巨大な貯水槽。そしていまはその意義を失いつつあった。この巨大円筒形物を有意義な存在に転化することを行った。
●現状の基壇を生かし、複数の家族が生活を行う集合住宅としてコンバージョンを行う。
●この構造物が持っている地域の核となりうるポテンシャルを最大限に開放する。地域のランドマークとしてそのシンボル特性をさらに拡大する。
●インフラ、公共施設に住むことによる新たな集住形態・コミュニティーの可能性を見出すものとする。
●「形」「水」この土木建造物建物が内包するものを快適な住環境に寄与するものとして最大限に活かしきることとする。

【講評】
 独特のシルエットでたたずむ地域の給水塔を、住居にコンバージョンするプロジェクトである。インフラストラクチャー自体に住むという一見大胆・強引な提案であるが、デザイン密度は高く、図面や模型もたいへん迫力がある。コンクリートへの開口量(居住性)・開け方(強度)など懸念される部分もないではないが、何よりも既存のシンボリックな形態のポテンシャルを手がかりに、水供給と循環、自然の保護、エネルギー、災害時の役割、公共性を持つ共用部分などを組み込むことによって、単なる住戸の積み重ねでしかなくなっているマンションや、いわゆる戸建て住宅地とは全く異なる有り様の、地域コンテクスト性をもった新たな集住形態イメージを提示した作品として評価したい。



【近代建築別冊 卒業制作2004掲載】

【講評】
 大阪市北区の茶屋町に小学生から高齢者まで広い年齢層を対象とした学習施設を計画するものである。茶屋町ではバブル期に地上げされた後、手付かずのまま放置されている敷地が散見される。このエリアで元・梅田東小学校をコアとし、文字通り地域に溶け込んだ教育施設を設けることにより、様々な世代の交流を目指した。これは作者が卒業研究を通して学んだ都市部の公立小学校のあり方に対する1つの提案であり、その優れた着想が評価され、当教室より近代建築別冊「卒業制作2002」の掲載作品として推薦することとなった。あえて商業地区であるこのエリアに教育施設を設けることにより、さまざまな効果が引き出されるものと考えられるが、そうした活動の様子が図面に表現されていれば、より説得力のある提案となったであろう。