【優秀作品】

柱 健太郎:roundabout ―近隣住区の起爆剤―

立川 弥生子:くるま舞台

【Concept】
 千里ニュータウンの研究より明らかになった住民活動の衰退。
ただ、完全に停止してしまったわけではない。
活動が行われていても集会場が閉じていて分からなかったり
活動を起こしたくても場所やきっかけがなかったり…
千里ニュータウンでは各団地ごとに自治会が組織されており
これにより団地ごとの「殻」が非常に強くなっている。
近隣住区全体としての活動はあっても団地間の交流はほとんどない。
さらに少子高齢化により住民活動が衰退してきている。
今こそ団地の枠を超えて住区として結束する必要がある。
ロータリーは現在単なる交通の結節点でしかない。
ここを中心として周辺の各団地へ壁を伸ばす。
それぞれの壁が団地での住民活動を表現し
互いに影響を及ぼし、そして新たな活動が生まれる。
ロータリーが住民活動のきっかけとなり住区内の活性化を図る。
それにより住民は近隣住区という単位を再認識することになる。

【講評】
 作者は、千里ニュータウンにおける「住民活動」の閉鎖性の問題を指摘した上で、地域に開かれた活動の場所とそのしくみを提案し、ニュータウン再生の一端を開こうとしている。敷地に選ばれたロータリーは、近隣センターや各団地との結節点となる可能性を持つものであり、これらを一体に取り込んだ再生プログラムは、地域特性を知り尽くした作者の深い洞察に基づくものであると言える。線形のエレメントによる空間構成には、様々な場所や「活動」を結ぼうとする意図が理解できるが、壁状のボリュームが中央に集中しすぎたために、空間的魅力が低減されている。また、利用者が逐一後片づけをする運用方式は、作者が批判している在来の集会施設的なシステムの典型であるとも思われる。「グラスボックス」の数が多すぎる感もあり、その一部には特定の場所を使い続けるしくみを用意する等、運用方式に関するアイデアの展開も望まれた。

【Concept】
 春、千里丘陵は薄紅の靄に包まれる。
桜がいっせいに花開くのだ。
駅前で演奏するジャズバンド。
カルチャーセンターにせっせと通う主婦や定年退職者たち。
夜のショーウィンドウには、
ストリートダンスに励む少年たちの姿が映っている。
千里ニュータウンには文化施設が足りないと云われて久しい。
進む一方の高齢化で住民の余暇は増大する。
住民が自由に創作し表現する、そんな場所をつくりたかった。
ここは青空駐車場だった。
千里中央はその名の通り、
千里ニュータウンの中心的商業・業務地区である。
休日ともなると、道路や駐車場は自家用車であふれかえる。
演じる者がいて、それを見る者がいれば、
そこはすなわち舞台となる。
さらにクルマという要素が加わるとどうなるだろう?
桜。創造、表現の場。駐車場。
千里ニュータウンらしいもの、を集めたら、
こんな空間になった。
敷地は千里中央地区の北部、約1ha。
千里ニュータウン開発当初からのリザーブ地だが、
現在は青空駐車場として使用されている。
駐車場としての機能は残しつつ立体化することで、
空いた敷地に一面サクラを植え「サクラの森」公園とする。
建物は低層階を一部ピロティとし、
千里中央、「サクラの森」、新千里北町の住宅地をつなぐ。
千里中央地区の北の門として、
人々が自由に行き交うことができるようにするとともに、
ギャラリーやカフェを設けて立ち止まれるようにする。
駐車場部分には、大小の稽古場と工房を埋め込む。
この稽古場群は、アトリエやスタジオといった
一般市民が創作活動を行う場として自由に使用できる。
駐車場を利用する人々は、
稽古場での創作活動を目にすることになる。
北側にはところどころバルコニーが設けてあり、
「サクラの森」を眺めてくつろげる。
最上層には駐車場と一体となった劇場「くるま舞台」を設ける。
この劇場は、創作活動の発表の場として位置づけられ、
下の稽古場や工房でつくられた作品を上演することを主とする。