Concept

Sorry... Under Construction

二つの大震災とこれからの地震対策

 1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災と、日本は内陸直下型地震と海溝型地震のタイプの異なる二つの大地震により人的、社会的、経済的に甚大な被害を被りました。この二つの大震災は、地震工学と耐震工学を研究する我々に多くの教訓と課題を与えました。阪神・淡路大震災は、これまでの建築耐震設計の考え方を見直す機会を与え、設計用入力地震動の設定から応答低減技術の開発などの耐震技術を高度化させました。また、既存建物の耐震改修を促進させ、地域・都市の地震防災を住民自らで考える土壌を養成したのは事実です。しかし、この際に考えてきた地震の大きさは、建築基準法の守るべき最低基準のものでした。東日本大震災の教訓から、最悪の状態を考えたリスク管理の重要性が叫ばれ、耐震設計においても想定できるあるいは想定を超えた最大の地震に対する安全性が要求されるべきとの声も出ています。関西においては、上町断層帯地震や東海・東南海・南海地震が逼迫しています。想定外の事態を社会でどのように受け入れ、被害軽減策を講じていくのか早急に議論し実行に移して行く必要があります。
 宮本研究室では、安全で安心な都市、社会を構築するため、大地震における建築物の被害低減を目標にした耐震技術の高度化と防災力・減災力向上を目指しています。

巨大地震への備え-絶震構造

2011.3.11東日本大震災での未曾有の被害を目の当たりにして、地震対策で考える想定地震を最大級のものにすべしとの情勢にあります。南海トラフ海溝型地震の連動による震源域の拡大、また内陸直下地震では発生確率の上昇と連動活断層の延長が警告され、このような巨大地震に対する防災、減災を考えるよう提言されています。建築構造の耐震課題としても設計用地震動の極大化への対応が迫られています。
 一方、東日本大震災では広範囲にわたり多くの建物が被害を受けましたが、地震規模のわりに致命的となる構造的な被害を受けた建物の数はそれほど多くなかったのが事実です。また、1995年阪神淡路大震災後に急速に数を増やした免震、制震構造の建物についても、一部の建物に不具合があったものの応答低減の効果が確認され、一応の効果があったとされています。しかしながら、それらの建物が経験した地震動のレベルは、現在の設計で想定されているものと同等かまたは小さいレベルでした。先にも述べた最大級の地震が発生した場合には、海溝型連動地震による大振幅の繰り返しの多い長周期地震動や、直下地震による大振幅パルス波の地震動に対して、免震建物では強震動との共振による擁壁との衝突や免震装置の破断、また超高層建物においては制震ダンパーの減衰性能の限界が危惧されます。以上のことを考えるときに、建物側で免震、制震技術を超える先進的な対地震技術の開発を行い、巨大地震に備えておく必要があります。
  そこで、宮本研究室では、想定以上の地震動が入力した際に建物と地盤間で生じる非線形相互作用の力の授受において、建物の基礎底面と支持地盤をできる限り絶縁することにより強震動の大加速度入力を絶ち、建物側面に設けた強靱性と減衰能を有する複合改良地盤で基礎の水平変形と残留変形を抑制する新しい「絶震構造」を実験、解析研究から実現することを目指しています。建物を地盤と切り離し地震動を完全に遮断する考えは、究極の制震構造として考えられますが、現在の技術では非現実的ということで本格的な研究への取り組みがなされていません。想定すべき地震動の大きさが青天井となる現下において、絶震構造の研究を進めることは構造技術の現状をブレークスルーするものと考えて、日々研究に向かっています。

免震・制震技術と来る巨大地震への備え

 「来るべき大地震に備えて、建築構造にかかわる我々は何をできるか?また、何をすべきか?」この課題に対して最善の解決策を見いだせない状況にある中で、次の巨大地震の発生が近づいていることだけは確実です。
 1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災と、内陸直下型と海溝型の異なる二つのタイプの大地震により、日本は人的、社会的、経済的に甚大な被害を受けました。この二つの大震災は、地震工学と耐震工学を専門とする我々に多くの教訓と課題を与えました。1995年阪神淡路大震災は、これまでの耐震設計を見直す機会を与え、設計用入力地震動の設定において、想定震源から深部地盤での増幅と表層地盤での非線形応答を考慮した一連の入力地震動の評価技術の向上を促しました。また建物の応答低減技術の開発や構造性能に基づく設計クライテリアの設定などを高度化させました。さらに、既存建物の耐震改修を促進させ、地域・都市の地震防災を住民自らで考える土壌を養成したのは事実です。特に、1980年代後半から開発が進み、実用化され始めた免震・制震技術が1995年阪神淡路大震災を契機として一段と研究が進み、多くの建築物に取り入れられるようになりました。
 この頃を振り返ってみると、新耐震設計法に基づく耐震技術の進歩がかなりのレベルまで達し、ある意味で構造技術の開発に閉塞感が漂っていた時期でした。そのような折に都市直下で大地震が発生しました。建築物の甚大な被害を目の当たりにして、新しい構造技術の開発が必要とされ、その目標が明確になることによって、自ずと開発に携わる人も費用も多くなり、また建築周辺の制御関連技術の進歩も相俟って、免震・制震技術が成熟してきました。そして免震・制震技術は耐震を上まわる安全、安心を支える主要な技術として大規模な建築物から戸建て住宅までに採用され、一般の人々に広く認知されてきました。
 2011年東日本大震災は、まさにこのような免震・制震技術の成熟感が漂う中で発生しました。建築物の被害は広範囲にわたりましたが、地震規模のわりに致命的となる被害を受けた建物の数はそれほど多くなかったのが事実です。また、1995年阪神淡路大震災の後に急速に数を増やした免震・制震構造については、一部の建物に不具合があったものの応答低減効果が確認され、一応の機能を果たしたとされています。しかしながら、それらの建物が経験した地震動の大きさは現在の設計で想定されているものと同等か、またはそれよりも小さいレベルでした。2011年東日本大震災での未曾有の津波被害を目の当たりにして、地震対策で考える想定地震を最大級のものにすべしとの考えのもと、南海トラフ海溝型地震の連動による震源域の拡大や、また内陸直下型地震の発生確率の上昇と連動活断層の延長が警告されています。このような巨大地震に対する防災、減災への対策が緊急に必要とされ、免震・制震構造への期待感が高まっているのが現状です。
 しかし、海溝型連動地震による大振幅の繰り返しの多い長周期・長時間地震動との共振や、直下型地震による大振幅パルス波に対しては制震建物においては制震ダンパーの減衰性能の限界や、免震建物ではクリアランスを超える変形によって擁壁との衝突と免震装置の破断等が危惧されます。以上のことを考えるときに、想定以上の地震動が入力した際に、免震・制震構造がどこまで応答低減効果を発揮できるのかを議論し、その限界性能までを情報発信することにより、社会に適正な期待感を抱かせることは建築構造技術者としての責務です。さらに進んで、社会が抱いている多大な期待感に応えるために、現状の免震・制震技術を超える先進的な対地震技術の開発も重要な課題となります。
 このような現状において、「免震・制震技術の現状と来るべき大地震への備え」をテーマとする本PDを開催することは、非常に時を得たものと考えます。2011年東日本大震災から2年半が経った今、3.11地震時における免震・制震建物の実際の揺れを冷静な目で分析し、建物がどのように揺れ、応答低減の効果がどのように発揮されたのかを議論することは非常に重要なことです。そして巨大地震の発生が逼迫している日本において、想定外の地震に対する備えを社会で進め、被害軽減策を早急に実行に移していくために、免震・制震技術が果たすべき役目を再認識する必要があります。二つの大震災の経験により、建築構造技術の閉塞感をブレークスルーして成熟感が漂うまでに発展した免震・制震技術を、最強地震に対しても建物の構造安全性に止まらず機能維持を確保するまでに高度化させて真の応答低減を実現し、社会が抱く期待感に応える契機となればと願うところです。


(本拙文は、2013年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)

大地震における地盤-基礎-建物系の応答評価の現状と課題-兵庫県南部地震から20年を迎えるにあたって-

1995年兵庫県南部地震から20年目を迎えようとしている。地震直後に神戸三宮でみた建築物の破壊状況は、今もはっきりと脳裏に残っている。この神戸三宮には近頃よく出向く機会があり、賑わいのある街並みを目にするが、震災の様相を思い起こさせるものはほとんどない。ただ、神戸市庁舎を眺めることで、その記憶が蘇えるのみである。20年という年月は、長いようであり、短い時間であった。この間、兵庫県南部地震での被害を教訓として、国や大学や学協会また民間研究機関において建築振動に関する研究は精力的に行われ、着実に発展してきた。
  日本建築学会振動運営委員会が関係するテーマでは、①震源特性と深層・表層地盤の増幅特性を取り入れた建設地点の強震動予測の高度化と、予測地震動の公開、②地盤-基礎間の非線形相互作用による建物への実効入力動の把握と杭基礎被害の解明、③強震観測網の整備と、即時被災度判定のためのモニタリング研究の促進、④建物応答制御のための免震・制震技術の開発推進と実装化、⑤大型振動台実験等による実大モデルの耐震性能評価など、が挙げられる。この中で、振動運営委員会が主催した建築学会大会でのPDでは、一昨年は③の「強震観測とモニタリング技術が災害時に果たすべき役割」を、昨年は④の「免震・制震技術の現状と来るべき大地震への備え」をテーマに議論した。本日のPDでは、①、②、⑤に関する話題を提供するとともに、2011年東北地方太平洋沖地震で明らかとなった耐震課題も合わせて議論し、今後の研究の進むべき方向について考えたい。
  想定地震動に関しては、南海トラフ巨大地震や都市圏直下地震への対策が急務となっている昨今、国や地方自治体で公開されている予測地震動の大きさは、現状の設計用レベル2をはるかに超え、日本の社会や経済に計り知れない影響を与えている。そして、地域の地震防災・減災や、個々の建物の耐震設計に取り組む実務者に混乱と無力感を与えているのも事実である。このような中で、やみくもにその振幅の大きさや継続時間の長さに慌てることなく、海溝型と内陸直下のタイプの異なる強震動の発生メカニズムや動特性、また、その予測技術の現状と限界をよく理解して、建物や都市の耐震化を着実にかつ冷静に進めていくことが必要である。
  地盤増幅と地盤‐基礎間の動的相互作用に関しては、兵庫県南部地震では、深部地盤の不整形性と表層地盤の増幅特性が相俟って地盤の揺れが局地的に大きくなり、建物被害が集中した震度7域の「震災の帯」が現れた。また湾岸の埋立て地では大規模な液状化が発生し、多くの杭基礎が被害を被った。このように、上部構造や杭基礎の被害に地盤の増幅特性が直接的に影響していることも明らかとなり、建設地点の地盤情報をできる限り把握して耐震設計を行うことの必要性が再認識された。表層地盤の増幅特性については、兵庫県南部地震以降にその影響を取り入れた設計の考え方が示されたが、まだまだ大震災での教訓を踏まえたレベルにまで達していないのが実状である。また、地表面で観測された地震動を入力して応答解析を行うと、実際には被害が無い建物でも大きな損傷となる実現象とのギャップ、いわゆる「大振幅地震動のわりに建物被害が小さい」ことが問題となった。この原因の一つとして、地盤と基礎間の接触条件に起因する非線形相互作用が影響して、地表面の揺れに比べ建物への実効入力動が小さかったことが分かってきているが、実設計にその考えを適用するまでには至っていない。
  これらのことは、建物の耐震設計を高度化し性能設計を志向するうえで、予測した強震動に地盤増幅を考慮して地表面の揺れを評価し、その地震動を建物への地震力に変換するプロセスで、未だ実現象を正確にシミュレーションできる解析ツールを携えていないこととなる。さらに、話を難しくするものとして、将来起こる地震の震源特性を精度良く予測することは無理であろうし、深部や表層地盤の地盤情報を十分に得ることにも限界がある。また、地下階や杭基礎と近傍地盤の接触境界で生じる応力伝達メカニズムを精度よく取り入れてモデル化するにも限度がある。一方、上部構造の耐震解析においては、より精緻で複雑で高精度な構造解析モデルが提案されている。これらのことを考えると、建物全体の応答解析を如何にバランス良く行って耐震性能を評価するかは、本日のPDのテーマである強震動予測や地盤増幅また相互作用の研究の発展と実務への適用にかかっていると言っても過言ではない。
  以上のようなことで、建物全体の耐震性向上をさらに目指すために、振動運営委員会傘下の「地盤震動小委員会」と「地盤基礎系振動小委員会」が企画、準備した本PDは大変有意義なものである。開催に向けてのご尽力に感謝するとともに、会場の皆さまとの活発な議論を期待する次第です。


(本拙文は、2014年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)

大振幅予測地震動を耐震設計にどう取り込む

 1995年兵庫県南部地震と2011年東北地方太平洋沖地震、その間に起こった幾つかの被害地震では、現状の設計用入力地震動レベルを超える強震動が多くの観測地点で記録された。さらに、二つの大震災での被害を目の当たりにして、建物の耐震性向上や地域、都市防災への対策において、将来発生が予想される都市直下地震や海溝型巨大地震での想定地震動を、最大クラスのものとして検討すべきとする時勢にある。
そもそも建築物の耐震設計は、建築基準法で定められた最低限の地震動に対して、建物の塑性変形を許容するが崩壊を防ぐように設計されている。また、より高度な耐震性を要求する建物に対しては、いわゆるサイト波として建設地点での入力地震動を工学的判断を踏まえて作成し、性能規定型設計法の考えのもとに設計が行われている。そこでは、入力地震動のレベルに応じて許容する損傷度合いを、建物の機能性や安全性を踏まえたクライテリアとして定められている。そのような中で、本パネルディスカッションのテーマにある「大振幅予測地震動」とは、二つの大震災の教訓から、過去の歴史被害地震の見直しや最新の地震学的知見を踏まえて、あらゆる可能性を考慮した震源モデルを用いて計算された極めて大きな地震動である。そのため、建築基準法レベルを遥かに超えるこのような最大クラスの地震動を、建物の耐震設計に考慮することの意義と必要性が議論されているのも事実である。しかし、現在においては、建物に要求される「安全性」のみならず「機能性」、「経済性」、「社会性」についての説明責任は大きくなっている。そして、最大クラスの地震動に対するこれらの要求は、今までの枠組みを超えたものとなり、構造設計者に多くの難しい課題を投げかけている。
 具体的な課題を列挙すると、次のようなものが考えられる。
1.震源モデルの特性化と深部・表層地盤のモデル化の問題や、研究途上にある強震動予測技術の信頼性と得られる強震動のばらつき評価
2.表層地盤と基礎間の強非線形相互作用による強震地動から地震力への変換プロセスの解明
3.基礎-上部構造連成系の強非線形地震応答解析による崩壊プロセスの評価
4.免震、制震等の応答制御技術の性能限界把握とさらなる高度化
5.大振幅地震動入力時の建物損傷度合いの施主、住民への分かり易い説明と社会的合意
 このように、「大振幅予測地震動」が関わる課題は、震源-地盤-基礎・上部構造の広い研究分野に波及する。また、一つ一つの建物の耐震性を保障するだけでなく、地域・都市の被害軽減策やそこで生活する住民への説明責任にまで及ぶ。
以上のようなことで、巨大地震の発生が危惧される昨今において、大振幅予測地震動を耐震設計に取り込むために、振動運営委員会傘下の「大振幅予測地震動に対する耐震設計法検討小委員会」が企画、準備した本パネルディスカッションは大変有意義なものである。開催に向けてのご尽力に感謝するとともに、会場の皆さまとの活発な議論を期待する次第です。

(本拙文は、2015年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)