Concept

二つの大震災とこれからの地震対策

 1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災と、日本は内陸直下型地震と海溝型地震のタイプの異なる二つの大地震により人的、社会的、経済的に甚大な被害を被りました。この二つの大震災は、地震工学と耐震工学を研究する我々に多くの教訓と課題を与えました。阪神・淡路大震災は、これまでの建築耐震設計の考え方を見直す機会を与え、設計用入力地震動の設定から応答低減技術の開発などの耐震技術を高度化させました。また、既存建物の耐震改修を促進させ、地域・都市の地震防災を住民自らで考える土壌を養成したのは事実です。しかし、この際に考えてきた地震の大きさは、建築基準法の守るべき最低基準のものでした。東日本大震災の教訓から、最悪の状態を考えたリスク管理の重要性が叫ばれ、耐震設計においても想定できるあるいは想定を超えた最大の地震に対する安全性が要求されるべきとの声も出ています。関西においては、上町断層帯地震や東海・東南海・南海地震が逼迫しています。想定外の事態を社会でどのように受け入れ、被害軽減策を講じていくのか早急に議論し実行に移して行く必要があります。
 宮本研究室では、安全で安心な都市、社会を構築するため、大地震における建築物の被害低減を目標にした耐震技術の高度化と防災力・減災力向上を目指しています。

巨大地震への備え-絶震構造

 2011.3.11東日本大震災での未曾有の被害を目の当たりにして、地震対策で考える想定地震を最大級のものにすべしとの情勢にあります。南海トラフ海溝型地震の連動による震源域の拡大、また内陸直下地震では発生確率の上昇と連動活断層の延長が警告され、このような巨大地震に対する防災、減災を考えるよう提言されています。建築構造の耐震課題としても設計用地震動の極大化への対応が迫られています。
 一方、東日本大震災では広範囲にわたり多くの建物が被害を受けましたが、地震規模のわりに致命的となる構造的な被害を受けた建物の数はそれほど多くなかったのが事実です。また、1995年阪神淡路大震災後に急速に数を増やした免震、制震構造の建物についても、一部の建物に不具合があったものの応答低減の効果が確認され、一応の効果があったとされています。しかしながら、それらの建物が経験した地震動のレベルは、現在の設計で想定されているものと同等かまたは小さいレベルでした。先にも述べた最大級の地震が発生した場合には、海溝型連動地震による大振幅の繰り返しの多い長周期地震動や、直下地震による大振幅パルス波の地震動に対して、免震建物では強震動との共振による擁壁との衝突や免震装置の破断、また超高層建物においては制震ダンパーの減衰性能の限界が危惧されます。以上のことを考えるときに、建物側で免震、制震技術を超える先進的な対地震技術の開発を行い、巨大地震に備えておく必要があります。
 そこで、宮本研究室では、想定以上の地震動が入力した際に建物と地盤間で生じる非線形相互作用の力の授受において、建物の基礎底面と支持地盤をできる限り絶縁することにより強震動の大加速度入力を絶ち、建物側面に設けた強靱性と減衰能を有する複合改良地盤で基礎の水平変形と残留変形を抑制する新しい「絶震構造」を実験、解析研究から実現することを目指しています。建物を地盤と切り離し地震動を完全に遮断する考えは、究極の制震構造として考えられますが、現在の技術では非現実的ということで本格的な研究への取り組みがなされていません。想定すべき地震動の大きさが青天井となる現下において、絶震構造の研究を進めることは構造技術の現状をブレークスルーするものと考えて、日々研究に向かっています。

免震・制震技術と来る巨大地震への備え

 「来るべき大地震に備えて、建築構造にかかわる我々は何をできるか?また、何をすべきか?」この課題に対して最善の解決策を見いだせない状況にある中で、次の巨大地震の発生が近づいていることだけは確実です。
 1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災と、内陸直下型と海溝型の異なる二つのタイプの大地震により、日本は人的、社会的、経済的に甚大な被害を受けました。この二つの大震災は、地震工学と耐震工学を専門とする我々に多くの教訓と課題を与えました。1995年阪神淡路大震災は、これまでの耐震設計を見直す機会を与え、設計用入力地震動の設定において、想定震源から深部地盤での増幅と表層地盤での非線形応答を考慮した一連の入力地震動の評価技術の向上を促しました。また建物の応答低減技術の開発や構造性能に基づく設計クライテリアの設定などを高度化させました。さらに、既存建物の耐震改修を促進させ、地域・都市の地震防災を住民自らで考える土壌を養成したのは事実です。特に、1980年代後半から開発が進み、実用化され始めた免震・制震技術が1995年阪神淡路大震災を契機として一段と研究が進み、多くの建築物に取り入れられるようになりました。
 この頃を振り返ってみると、新耐震設計法に基づく耐震技術の進歩がかなりのレベルまで達し、ある意味で構造技術の開発に閉塞感が漂っていた時期でした。そのような折に都市直下で大地震が発生しました。建築物の甚大な被害を目の当たりにして、新しい構造技術の開発が必要とされ、その目標が明確になることによって、自ずと開発に携わる人も費用も多くなり、また建築周辺の制御関連技術の進歩も相俟って、免震・制震技術が成熟してきました。そして免震・制震技術は耐震を上まわる安全、安心を支える主要な技術として大規模な建築物から戸建て住宅までに採用され、一般の人々に広く認知されてきました。
 2011年東日本大震災は、まさにこのような免震・制震技術の成熟感が漂う中で発生しました。建築物の被害は広範囲にわたりましたが、地震規模のわりに致命的となる被害を受けた建物の数はそれほど多くなかったのが事実です。また、1995年阪神淡路大震災の後に急速に数を増やした免震・制震構造については、一部の建物に不具合があったものの応答低減効果が確認され、一応の機能を果たしたとされています。しかしながら、それらの建物が経験した地震動の大きさは現在の設計で想定されているものと同等か、またはそれよりも小さいレベルでした。2011年東日本大震災での未曾有の津波被害を目の当たりにして、地震対策で考える想定地震を最大級のものにすべしとの考えのもと、南海トラフ海溝型地震の連動による震源域の拡大や、また内陸直下型地震の発生確率の上昇と連動活断層の延長が警告されています。このような巨大地震に対する防災、減災への対策が緊急に必要とされ、免震・制震構造への期待感が高まっているのが現状です。
 しかし、海溝型連動地震による大振幅の繰り返しの多い長周期・長時間地震動との共振や、直下型地震による大振幅パルス波に対しては制震建物においては制震ダンパーの減衰性能の限界や、免震建物ではクリアランスを超える変形によって擁壁との衝突と免震装置の破断等が危惧されます。以上のことを考えるときに、想定以上の地震動が入力した際に、免震・制震構造がどこまで応答低減効果を発揮できるのかを議論し、その限界性能までを情報発信することにより、社会に適正な期待感を抱かせることは建築構造技術者としての責務です。さらに進んで、社会が抱いている多大な期待感に応えるために、現状の免震・制震技術を超える先進的な対地震技術の開発も重要な課題となります。
 このような現状において、「免震・制震技術の現状と来るべき大地震への備え」をテーマとする本PDを開催することは、非常に時を得たものと考えます。2011年東日本大震災から2年半が経った今、3.11地震時における免震・制震建物の実際の揺れを冷静な目で分析し、建物がどのように揺れ、応答低減の効果がどのように発揮されたのかを議論することは非常に重要なことです。そして巨大地震の発生が逼迫している日本において、想定外の地震に対する備えを社会で進め、被害軽減策を早急に実行に移していくために、免震・制震技術が果たすべき役目を再認識する必要があります。二つの大震災の経験により、建築構造技術の閉塞感をブレークスルーして成熟感が漂うまでに発展した免震・制震技術を、最強地震に対しても建物の構造安全性に止まらず機能維持を確保するまでに高度化させて真の応答低減を実現し、社会が抱く期待感に応える契機となればと願うところです。


(本拙文は、2013年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)

大地震における地盤-基礎-建物系の応答評価の現状と課題-兵庫県南部地震から20年を迎えるにあたって-

 1995年兵庫県南部地震から20年目を迎えようとしている。地震直後に神戸三宮でみた建築物の破壊状況は、今もはっきりと脳裏に残っている。この神戸三宮には近頃よく出向く機会があり、賑わいのある街並みを目にするが、震災の様相を思い起こさせるものはほとんどない。ただ、神戸市庁舎を眺めることで、その記憶が蘇えるのみである。20年という年月は、長いようであり、短い時間であった。この間、兵庫県南部地震での被害を教訓として、国や大学や学協会また民間研究機関において建築振動に関する研究は精力的に行われ、着実に発展してきた。
  日本建築学会振動運営委員会が関係するテーマでは、①震源特性と深層・表層地盤の増幅特性を取り入れた建設地点の強震動予測の高度化と、予測地震動の公開、②地盤-基礎間の非線形相互作用による建物への実効入力動の把握と杭基礎被害の解明、③強震観測網の整備と、即時被災度判定のためのモニタリング研究の促進、④建物応答制御のための免震・制震技術の開発推進と実装化、⑤大型振動台実験等による実大モデルの耐震性能評価など、が挙げられる。この中で、振動運営委員会が主催した建築学会大会でのPDでは、一昨年は③の「強震観測とモニタリング技術が災害時に果たすべき役割」を、昨年は④の「免震・制震技術の現状と来るべき大地震への備え」をテーマに議論した。本日のPDでは、①、②、⑤に関する話題を提供するとともに、2011年東北地方太平洋沖地震で明らかとなった耐震課題も合わせて議論し、今後の研究の進むべき方向について考えたい。
  想定地震動に関しては、南海トラフ巨大地震や都市圏直下地震への対策が急務となっている昨今、国や地方自治体で公開されている予測地震動の大きさは、現状の設計用レベル2をはるかに超え、日本の社会や経済に計り知れない影響を与えている。そして、地域の地震防災・減災や、個々の建物の耐震設計に取り組む実務者に混乱と無力感を与えているのも事実である。このような中で、やみくもにその振幅の大きさや継続時間の長さに慌てることなく、海溝型と内陸直下のタイプの異なる強震動の発生メカニズムや動特性、また、その予測技術の現状と限界をよく理解して、建物や都市の耐震化を着実にかつ冷静に進めていくことが必要である。
  地盤増幅と地盤‐基礎間の動的相互作用に関しては、兵庫県南部地震では、深部地盤の不整形性と表層地盤の増幅特性が相俟って地盤の揺れが局地的に大きくなり、建物被害が集中した震度7域の「震災の帯」が現れた。また湾岸の埋立て地では大規模な液状化が発生し、多くの杭基礎が被害を被った。このように、上部構造や杭基礎の被害に地盤の増幅特性が直接的に影響していることも明らかとなり、建設地点の地盤情報をできる限り把握して耐震設計を行うことの必要性が再認識された。表層地盤の増幅特性については、兵庫県南部地震以降にその影響を取り入れた設計の考え方が示されたが、まだまだ大震災での教訓を踏まえたレベルにまで達していないのが実状である。また、地表面で観測された地震動を入力して応答解析を行うと、実際には被害が無い建物でも大きな損傷となる実現象とのギャップ、いわゆる「大振幅地震動のわりに建物被害が小さい」ことが問題となった。この原因の一つとして、地盤と基礎間の接触条件に起因する非線形相互作用が影響して、地表面の揺れに比べ建物への実効入力動が小さかったことが分かってきているが、実設計にその考えを適用するまでには至っていない。
  これらのことは、建物の耐震設計を高度化し性能設計を志向するうえで、予測した強震動に地盤増幅を考慮して地表面の揺れを評価し、その地震動を建物への地震力に変換するプロセスで、未だ実現象を正確にシミュレーションできる解析ツールを携えていないこととなる。さらに、話を難しくするものとして、将来起こる地震の震源特性を精度良く予測することは無理であろうし、深部や表層地盤の地盤情報を十分に得ることにも限界がある。また、地下階や杭基礎と近傍地盤の接触境界で生じる応力伝達メカニズムを精度よく取り入れてモデル化するにも限度がある。一方、上部構造の耐震解析においては、より精緻で複雑で高精度な構造解析モデルが提案されている。これらのことを考えると、建物全体の応答解析を如何にバランス良く行って耐震性能を評価するかは、本日のPDのテーマである強震動予測や地盤増幅また相互作用の研究の発展と実務への適用にかかっていると言っても過言ではない。
  以上のようなことで、建物全体の耐震性向上をさらに目指すために、振動運営委員会傘下の「地盤震動小委員会」と「地盤基礎系振動小委員会」が企画、準備した本PDは大変有意義なものである。開催に向けてのご尽力に感謝するとともに、会場の皆さまとの活発な議論を期待する次第です。


(本拙文は、2014年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)

大振幅予測地震動を耐震設計にどう取り込む

 1995年兵庫県南部地震と2011年東北地方太平洋沖地震、その間に起こった幾つかの被害地震では、現状の設計用入力地震動レベルを超える強震動が多くの観測地点で記録された。さらに、二つの大震災での被害を目の当たりにして、建物の耐震性向上や地域、都市防災への対策において、将来発生が予想される都市直下地震や海溝型巨大地震での想定地震動を、最大クラスのものとして検討すべきとする時勢にある。
 そもそも建築物の耐震設計は、建築基準法で定められた最低限の地震動に対して、建物の塑性変形を許容するが崩壊を防ぐように設計されている。また、より高度な耐震性を要求する建物に対しては、いわゆるサイト波として建設地点での入力地震動を工学的判断を踏まえて作成し、性能規定型設計法の考えのもとに設計が行われている。そこでは、入力地震動のレベルに応じて許容する損傷度合いを、建物の機能性や安全性を踏まえたクライテリアとして定められている。そのような中で、本パネルディスカッションのテーマにある「大振幅予測地震動」とは、二つの大震災の教訓から、過去の歴史被害地震の見直しや最新の地震学的知見を踏まえて、あらゆる可能性を考慮した震源モデルを用いて計算された極めて大きな地震動である。そのため、建築基準法レベルを遥かに超えるこのような最大クラスの地震動を、建物の耐震設計に考慮することの意義と必要性が議論されているのも事実である。しかし、現在においては、建物に要求される「安全性」のみならず「機能性」、「経済性」、「社会性」についての説明責任は大きくなっている。そして、最大クラスの地震動に対するこれらの要求は、今までの枠組みを超えたものとなり、構造設計者に多くの難しい課題を投げかけている。
 具体的な課題を列挙すると、次のようなものが考えられる。
1.震源モデルの特性化と深部・表層地盤のモデル化の問題や、研究途上にある強震動予測技術の信頼性と得られる強震動のばらつき評価
2.表層地盤と基礎間の強非線形相互作用による強震地動から地震力への変換プロセスの解明
3.基礎-上部構造連成系の強非線形地震応答解析による崩壊プロセスの評価
4.免震、制震等の応答制御技術の性能限界把握とさらなる高度化
5.大振幅地震動入力時の建物損傷度合いの施主、住民への分かり易い説明と社会的合意
 このように、「大振幅予測地震動」が関わる課題は、震源-地盤-基礎・上部構造の広い研究分野に波及する。また、一つ一つの建物の耐震性を保障するだけでなく、地域・都市の被害軽減策やそこで生活する住民への説明責任にまで及ぶ。
以上のようなことで、巨大地震の発生が危惧される昨今において、大振幅予測地震動を耐震設計に取り込むために、振動運営委員会傘下の「大振幅予測地震動に対する耐震設計法検討小委員会」が企画、準備した本パネルディスカッションは大変有意義なものである。開催に向けてのご尽力に感謝するとともに、会場の皆さまとの活発な議論を期待する次第です。

(本拙文は、2015年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)

東日本大震災から 5年-建築振動工学の到達点と残された課題

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から5年目を迎える。海溝型巨大地震による継続時間の長い揺れと、それに続く巨大津波がもたらした甚大な被害の様相は、今も鮮明に記憶に残っている。振動運営委員会の傘下にある7つの小委員会では、地震発生以降、建築振動研究の立場から、巨大震源の特性化、地盤‐建物の震動現象の解明、建物被害の原因究明、被害軽減技術の高性能化などをテーマに取り組んできた。そして一つひとつの建物の耐震性を向上させることは勿論、都市・地域の防災・減災に寄与することを目的に活動を行ってきた。震災後5年の歳月が経つ現時点で、何が解明され、何が依然として未解明なのかを総括し、現状の対地震技術の可能性と限界を再認識することは、将来の巨大地震に備えるうえで大変意義深いことである。
 発生後21年が経過した1995年1月17日阪神・淡路大震災についても、振動運営委員会では、都市直下の地殻内地震による極めて大振幅の揺れで浮き彫りとなった耐震課題を検討してきた。そして2007年には「建築振動工学の発展と耐震設計」をテーマとして、2011年には「阪神・淡路大震災を振り返り、来たる大地震に備える‐建築振動研究に課せられたもの‐」をテーマにシンポジウムを開催して、それぞれの時までの成果を総括し、今後の研究のあり方について意見を交わした。特にこの2011年3月7日に開催したシンポジウムでは、「来たる大地震に備える」を主題に、各小委員会の立場から想定を超える大地震に対する研究の方向性を議論し、依然として多くの課題が山積していることを認識した。しかし、地震は時を待たず、その矢先の4日後に東日本大震災が発生したのであった。このような教訓を受け、南海トラフ巨大地震や大都市圏直下地震の発生が危惧される昨今、二つの大震災から学んだ経験を活かし、被害軽減に向けた建築振動研究を加速する必要がある。そして、地震に強い建物と社会の構築に、一刻も早く研究成果を適用していくことが振動運営委員会の果たすべき役割である。
【二つの大震災と振動運営委員会】
 兵庫県南部地震後には、震源の特性化や、震源から建設サイトの伝播特性を明らかにしようとする研究が高まった。これには日本全国に整備された強震観測網の貢献が大きく、強震動予測技術の高度化や建物への入力地震動の特性を解明する研究が進展した。しかし、東北地方太平洋沖地震での巨大震源を鑑みて、想定する震源設定の難しさや、提示される強震動振幅の大きさの不確かさ、また実設計への取り込む際の道筋をどのようにするかという新たな問題が浮上した。さらに、二つの大震災で経験した建物被害には、建設地点の深部と表層の地盤性状による増幅特性の影響が大きく、より正確で緻密な地震動評価技術が必要であることが再認識された。軟弱地盤や液状化地盤での基礎構造の被害も多発し、その設計法の指針化を早めることも必要となった。また耐震性を向上させる技術として免震、制震技術の開発は著しく進展、普及したが、地殻内地震による大振幅のパルス型地震動や、海溝型地震による長周期長時間地震動に対して免震、制震建物は必ずしも万全とは言えないことも判ってきた。このようなことから、現在、振動運営委員会で取り組んでいるテーマをまとめると次のようになる。
1)(強震観測記録の価値認識と建物系観測の強化・啓蒙)
兵庫県南部地震後に強震観測網が整備され、地震工学、耐震工学に関する研究は一段と進んだ。これにより、震源や強震動の特性把握と、完全ではないが被害分析を定量的に行うことが可能となった。一方、建物と地盤系を一体とした強震観測は依然として進んでおらず、記録の公開も限られている。国等の政策を含め、抜本的な戦略が必要となる。
2)(活断層型と海溝型の異なる揺れに対する地震対策)
内陸地殻内と海溝型の震源タイプの異なる強震動がもつ特性が明らかになった。しかし、国や各機関から提示される強震動のばらつきは大きく、また、最大級の地震に対する耐震解析の信頼性向上と、損傷を許容した被害クライテリアの社会への認知が必要となる。
3)(深部、表層の地盤データの蓄積と増幅特性の評価)
深部地盤の不整形性や表層地盤の非線形・液状化現象が、建物への入力地震動を変化させ、基礎-上部構造の被害を大きくした。地盤データのさらなるデータベース化と、建設サイトごとの地盤状況を反映させた緻密な入力地震動の設定法の普及が必要となる。
4)(実効入力動の正確な評価と建物被害との関係の解明)
建物の地震力を評価する際には、サイト地盤、近傍地盤、基礎構造間での3つの非線形相互作用を取り入れる必要がある。このプロセスは建物被害に直結する実効入力動を決めるものであり、実被害と耐震解析の間に存在するギャップを解消する要因となる。
5)(免震、制震構造の限界把握と高性能化)
兵庫県南部地震後に数を増やした免震、制震建物は、建物の被害軽減や機能維持に効果を発揮する。しかし、最大級の地震に対して免震装置の変形限界や擁壁衝突の問題、また制震ダンパーの性能限界の問題が懸念され、より一層の高性能化が必要となる。
6)(構造モニタリングの高度化と実装化の推進)
兵庫県南部地震後のセンサーや損傷評価技術の進展によって、構造モニタリングの研究は進んだ。東北地方太平洋沖地震では、即時の損傷評価が災害対応に役立つことも認識された。しかし、実装化は依然進んでおらず、時期を逸せず普及に努める必要がある。

以上のように、振動運営委員会が取り組む研究トピックは、震源‐地盤‐基礎‐建物応答の広い領域(図1)に及ぶ。振動運営委員会の役目は、このような課題に向けて活動している7つの小委員会の研究ベクトルの方向を合わせ、時間の無駄なく成果を積み上げ、その成果を融合して地震工学や耐震工学の発展に貢献することにある。
今後の委員会活動に活かしていくため、会場からの活発なご意見に期待する次第である。

(本拙文は、2016年1月22日開催 日本建築学会振動運営委員会シンポジウム「東日本大震災から 5年-建築振動工学の到達点と残された課題」主旨説明による))

将来の大地震に備える強震観測とモニタリング

 地盤や建物内に設置したセンサーによって地震時の揺れを計測して、それぞれの振動現象をコンピュータで分析・解析するという技術面では、「強震観測」と「モニタリング」は同じような役割を担っている。しかし、二つの技術が地震工学や耐震工学の学域の中で課せられた役割は異にしている。多くの建築物に被害をもたらし、地震後4か月が経過した今でも復旧の途上にある2016年4月に発生した熊本地震においても、「強震観測」と「モニタリング」がそれぞれ果たすべき役割について多くのことが示唆された。
 「強震観測」については、1995年阪神・淡路大震災以降に防災科研、気象庁、消防庁自治体によって地盤系の強震観測網が整備された。そして熊本地震では、立て続けに起こった前震と本震の震 源となった活断層近傍で幾つかの強震記録が観測され、直ちに公開されている。被害が最も大きかった益城や西原の両地区で震度7を計測した強震記録は、これまでの想定を遥かに超える地震の揺れが、活断層地震で現実に発生することを改めて認識させた。さらに、これらの強震記録を分析・解析することによって、活断層近傍に建設される建物の耐震設計の考え方を見直す契機ともなりうるものである。また、多くの木造住宅が倒壊した被害集中域の原因を解明する上で、大変重要な記録となる。2011年東日本大震災においても長時間の長周期地震動の強震記録が数多く観測され、それらを分析・解析することによって、海溝型巨大地震の震源破壊機構や、地盤中の地震波伝播特性の解明に多くの成果を挙げている。また、建物の揺れについても東京湾岸や大阪湾岸に建つ超高層建物の観測記録を分析することで、長周期地震動の脅威を自ずと再認識させる契機となった。このようなことからも、強震観測の果たす役割は明らかで、日本の地震工学、耐震工学の進歩、発展に多大な貢献をしてきたことは言わずもがなである。
 「モニタリング」については、技術面では低廉で高性能なセンサーの開発や、計測データ処理技術の向上、また情報ネットワークの高度化とともに、これらを活用して実測データに基づく被災度判定システムが実現し、迅速な建物健全性の評価が可能となってきている。さらに、運用面では建物一つ一つごとの地震後健全性を評価することを目的とした初期段階から、南海トラフ巨大地震や大都市圏直下地震による大規模災害時の膨大な数の建物被災度判定や、防災拠点となる建物のリアルタイムでの被災度判定の要求への対応など、モニタリングの果たすべき役割は拡大している。熊本地震においては震度7の地震が立て続けに起こったために、一度目の地震の揺れで耐震性能が大幅に低下したことを知らずに自宅に戻り、尊い命を失った被災者もいた。また、避難場所や防災拠点となるべき役所や学校の公共建物や、応急救護の拠点となる病院等の迅速な被災度判定の必要性が改めて顕在化した。このような実例を考えてみてもモニタリングの果たすべき役割は大きく、地震後迅速に建物の安全性と機能性を評価し、安心感をもって建物の継続使用を認知させる技術の重要性を改めて認識できる。そして、来たる巨大地震での防災、減災に貢献するために、建物モニタリング技術の早急な進歩と普及が期待される。
 本PDは振動運営委員会傘下の「強震観測小委員会」と「モニタリング小委員会」が企画、準備したもので、「将来の大地震に備える強震観測とモニタリング」をテーマに、実測データをもとにした両技術の果たすべき役割と今後の進むべき方向を議論することを目的としている。南海トラフ巨大地震や内陸直下地震の発生が危惧され、都市や社会の耐震対策が急がれている現在、また、この度の熊本地震で得られた強震記録や地震後の応急危険度判定の状況を鑑みても、本日のPDテーマは緊急の問題で時を得たものである。
 最後に、開催に向けての関係者のご尽力に感謝するとともに、会場の皆さんを含めて活発な議論を期待する次第である。
(本拙文は、2016年度日本建築学会大会 振動パネルディスカッションの主旨説明による)