こんなまちに住みたい / 大野 拓也

独立行政法人 建築研究所懸賞論文
最優秀賞(住宅生産団体連合会会長賞)

『地域に住み続けられるために』

キーワード: 住み替え、生活の変化、地域コミュニティ

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 人々は人生のある時に住宅を手に入れ、その住まいを定住先とすることが多いと思われる。住宅を探す時の判断基準は、その時点で考えられる近い将来を意識したものであることが、ほとんどではないだろうか。しかし、日々の暮らしを重ねていく中で、家族構成・身体機能・生活環境などの変化が生じてくる。これらの変化に対応するために、住宅の改築や改造、引越といった手段が取られる場合もあるが、そのまま我慢して住み続ける人々も多いのでないか。また、大半の賃貸住宅のでは、改造することが禁止されている。

 自分や家族の身の上に想像できなかった事態(体が不自由になるなど)が起こったときに、同じ住宅に住み続けながら、早急に対応することは難しい。そこで、こうした不測の事態が起こったとき、あるいは生活志向や環境が変わった時に、適切な住宅をすぐに見つけることができ、住み慣れた地域を離れることなく、手軽に住み替わることができれば、近隣の友人知人達と離れることなく、現状の生活が維持できる。そのことにより、まちはもっと住みやすくなるのではないか、と私は考える。このような「簡単に住み替えのできるネットワークのあるまち」に私は住みたい。

 以下、「住み慣れた地域を離れることなく、手軽に住み替わることができること」のよさを、家族構成、身体機能、生活環境の三項目について、それぞれ述べてみる。

1.家族構成の変化に対応

 一人暮らし、新婚夫婦、子どもが成長した世帯、子どもが独立した夫婦のみの世帯、高齢の祖父母と暮らす三世代家族など、各々の家族の成長や人数の増減といった家族の移り変わりに合わせて、住まいを替えられるとよい。例えば、子供が大きくなり個々の部屋を用意したい時には、部屋数の多い間取りの住宅を選び、彼らが社会人となり家を離れたときには、夫婦でゆったりと部屋数が少なくても広めの住宅を選ぶなどの工夫ができる。

2.身体機能の変化に対応

 病気・事故等で体に障害が生じ、現在の住宅で住み難くなった時には、バリアフリー対応の住宅に移ることにより、快適な生活を続けることができるとよい。また、高齢になり体力が衰えてきた時には、同じ地域(コミュニティ)の中にある高齢者対応の住宅に移ることで、顔見知りの居る同じ地域コミュニティにそのまま住み続けることが可能となる。

 これまでは、身体機能の変化に対応するには、まず住宅改造を行うことを第一に考えてきたが、必ずしもそれが得策ではないだろう。こうしたバリアフリー住宅、高齢者住宅は、公共交通や公益施設の充実した地区周辺に計画されていることを前提とする。

3.生活環境の変化に対応

 数年で勤務地が変わる人々(転勤族)にも、望まれる住宅を提供できる。また、数年単位だけではなく、月単位、週単位での住宅を探すこともできるようにすれば、例えば、恵まれた自然環境の中での生活を希望する家族には、一定期間の滞在も可能である。いわゆる週末住宅としての利用だけではなく、そういった環境の中で勤務したい人々に、平日住宅を提供することも考えられる。

 これまで述べてきた案について、私が考える具体的手法について簡単にふれる。

1.空き住宅の情報管理と提供サービスを行う

 住み替えを望む家族が、希望するプランの住宅に関する空き家情報を簡単に得られるように、地区全体の住宅に関する情報を一括もしくは共同で管理し、希望者の要望に応じて提供する。

2.住宅の様々なプランを整備配置する

 前述した様々な生活スタイルを想定した部屋数や広さといったプランの住宅を建設、補充していく。その時に、同タイプの住宅ごとがまとまったゾーン分けをしない。そのことにより、異なった家族形態、年齢層が住む地域コミュニティ(Mixed Generations)が形成され、地域の多様性を生むと共に、地域の活力を損なうことを防げると考える。

3.住宅のメンテナンス(維持・管理)を定期的に行う

 日本では欧米に比べ、住宅への維持管理の重要性が、人々にあまり認識されていない。定期的に住宅に手を入れていくことで、新築ではなくとも住宅の質の高さを保つことができる。また、中古物件の価値を再認識すべきであり、土地の値段が全てで既存建築物が価値のない現状は、絶対に見直されるべきである。

 これ以外にも、具体的手法については、さらにあらゆる方法が考えられるであろう。最も重要なことは、「人々が健康に幸せに暮らしていくためには、各個人の生活にあった適切な住まいを住み慣れたまちで確保できること」だと私は考える。そのための方策が整ったまちが、私達の21世紀の暮らしを支えるのである。

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