破壊の構築 / 八木 利典

ATC関西学生卒業作品展2002賞 優秀賞

Destruction/Construction 〜美浜原発オピニアム〜

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します
クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

二重の不透明性

 原発は20世紀の人類の発展に大きく貢献したが、その反面常にその是非を問われてきた。問題なのは、原発そのものの危険性より、一般の病院や警察など一般人では入り込めないという不信感と放射線という目に見えないものへの不安である。
「ものを恐れなさすぎたり、恐れすぎたりするのはやさしいが、正当に恐れることは難しい。」
    −理学博士であり、あの夏目漱石とも親交のあった文才でもある寺田寅彦の言葉
いかにして正当に恐れることができるのか?

原発の将来

 原発は必要か、それとも不要か?現状では当分は正当な恐れを持って付き合っていかなければならない。しかし、確実に世界は原発撤廃の方向へ動いている。では負の遺産と言われるであろうこの原発はどう残すのか?完全に閉ざして保存か、優しく守られ展示物として生きるのか?

破壊の構築の意味

 場所は全国的にも原発で有名な福井県。リアス式海岸が美しい、その名も美浜町である。容易に大量の水が確保できて、広大な用地がとれるこの場所は原発に適している。建物は人の存在を無視した途方も無いスケールの科学のカタマリ。この20世紀の産物は、21世紀を迎え徐々に寿命を迎え始める。
 ここで僕は原子炉を包む円筒状の原子炉建屋を中心に計画を行おうと思う。目的はその厚さ1mを越す壁に守られた原子炉である。壁は「人の意思」と自ら歩んだ「歴史」によって破壊される。人はそこで同じ悩みを抱える人間と歪められていない情報に触れ、原発の将来を個人の頭の中でも会議室の中でもなく現場で考える。美しい自然とアートもある。宿泊施設もある。じっくり考える。そしてここを立ち去る際、立ちはだかる壁に自分の意見を込める。破壊するのか、破壊しないのか。
 そのプロセスがそのまま建築化され、アートに昇華する可能性を秘めているのは間違いない。ここにただ観るだけでない人々の意見の展示場、破壊によって構築されるOpinion + Museum = Opiniumが誕生した。

戻る