2003.7.17

北欧見聞記・ディフューザ編

大阪大学 甲谷寿史

 

 

現在客員研究員として、以下の研究室に滞在しています。

Laboratory of Ventilation and Air Quality (Professor Mats Sandberg),

KTH Research School, Centre for Built Environment,

Department of Building Technology, University of Gävle

 

 

1.置換換気ディフューザ

 北欧が元祖と言う噂に違わず、置換換気ディフューザは多く見られる。じゃまになるくらい大きなディフューザが設置されており、写真1ではレストランの客席のすぐ側に設置されており、ドラフトを感じるので不評だという(研究所の行きつけのレストランであり、研究所のメンバー談)。ただし、右写真にあるようにこのレストランではアネモスタットによる天井吸気も併用されている。排気は確認していないものの、おそらく厨房のレンジフードである。

 

写真1 Gävle(イエブレ)市内のレストラン

 

 写真2に小学校における設置例を示す。教室後方に設置されているものの、やはり巨大である(左写真は教室前方からのもの)。排気は廊下で集中排気されており、各教室と廊下の間に換気口が設置されている。

 

写真2 Gävle(イエブレ)郊外の小学校

 

 写真3は、スウェーデン最古の大学があり大学都市として有名なUppsala(ウプサラ)のレストランにおける設置例である。左写真の左奥にディフューザが見え、側に座って見たものの、これだけ大きいとかなりの低風速であり、ドラフトは感じなかった。

 

写真3 Uppsala(ウプサラ)市内のレストラン

 

 写真4は、フィンランド・ヘルシンキでハイテクモダンスタイルの現代建築としても秀逸であったBiomedicum内のアトリウムに設置されたディフューザ。人間の身長ほどのものが等間隔で並び、アトリウムにおける通路と中央部のラウンジのように使われる空間の敷居として、うまくデザインされている。以前デンマーク・コペンハーゲンの空港(Kastrup空港)で、スパンの中央にほぼ同径のディフューザが等間隔で配置されていて、うまくデザインされていると感じたを思い出す(写真4)。

 

 

   写真3 フィンランド・ヘルシンキBiomedicum   写真4 Denmark-Copenhagen空港

 

 大空間の例として、イエブレ市内に建設中の床面積約13000m2の工場での設置状況を写真5に示す。空気質を考慮して置換換気型にしたわけでなく、大空間なのでダクトを柱に沿わせて居住域まで持ってくることにより、結果的に置換換気方式になっている。排気はスパンの短辺方向(左写真の右手前から左奥の方向)の中央部に通しているダクトから行う。

 

写真5 Gävle(イエブレ)市内に建設中の工場

 

 

 柱の様な形状を持ち、よりデザインされた製品を写真6に示す。現在滞在しているMats Sandberg研究室の実験風景であり、長年置換換気における空気質や温熱環境に関する検討を行っており、現在は被験者の作業効率やディフューザからの騒音に関する検討を行っている。面白いテーマとして、換気装置の間欠運転に気が付かないように、運転にシンクロさせた暗騒音を発生させるという研究が行われている。

 

写真6 Sandberg 研究室における実験風景

 

 コンパクトな置換換気ディフューザも、時折見られる。6月中旬に、国際会議で面識の会ったGöteborg(イエテボリ)のChalmers(シャルメッシュ)工科大学のPer Falén教授を訪問した。彼は以前SP(Swedish National Testing and Research Institute)に所属していたが、最近Chalmers大学に呼ばれた、システムシミュレーションや制御が専門の方で、最近はデマンドコントロールの研究で日本のにおいセンサーに興味を持っていると話していた。写真7は教授室に設置されていたディフューザであるが、非常にコンパクトなものである。

写真7 Göteborg(イエテボリ)・Chalmers工科大学のFalén教授室

 

 

2.天井設置ディフューザ

 置換換気が多く見られると言いながらも、やはり数から言うと天井設置型が多い。置換換気は多少じゃまになっても良い個室で多く見られる他、なぜかレストランで見られる。公共施設や商業施設では圧倒的に天井設置型が多い。

 写真8は市庁舎のロビー、写真9は商業施設の店舗内の設置例である。パンチングメタルと言うよりも、単なる金網に近い程度の「透け透け」のカバーが付いているのみでダクトの孔が見え、美しくない。

 写真10は、同商業施設であるが天井を張っていない通路に設置されている状況である。左写真はディフューザの周囲1m程度のみ天井版を設置し、実験室を思わせるような設置の仕方に少なからず驚いた。

 

写真8 Gävle(イエブレ)市庁舎のロビー

 

 

写真9 Gävle(イエブレ)市内の商業施設(店舗内)

 

 

写真10 Gävle(イエブレ)市内の商業施設(通路)

 

 写真11と12は、パンチングメタルでなく、多くの小孔を持つ吹き出し口であり、このタイプはIEA(国際エネルギー機構)Annex20「数値手法による室内気流・空気汚染の評価」の研究においても複雑気流を形成する典型例として多く検討され、研究者の間では「IEAディフューザ」と呼ばれている。

 

写真11 Göteborg(イエテボリ)・Chalmers工科大学の談話室

 

写真12 Gävle(イエブレ)市内に建設中の工場のオフィス棟

 

 北欧ではまだ見かけていないが、写真13に示すドイツ・フランクフルト空港の例のように、ライン状で多数の小孔があるタイプは、ヨーロッパでは良くあると聞く。なお、右写真は、天井埋め込み式ではなく、間接照明がされている天井面近くに中写真の様な多数の小孔を持つライン状の水平吹き出しチャンバーが設置されている。

 先のIEAの研究(主に、Aalborg大学のP.V.Nielsenと当時MIT・現Purdue大学のQ.Chen)では、水平吹き出しのこのタイプのIEAディフューザが主に用いられ、Box法、PV法、Momentum法など境界条件として与える物理量を簡易化する手法を検討しており、結果として、各タイプのディフューザに対して推奨する手法及び境界条件を与える位置を提案している。

 

写真13 Frankfurt(フランクフルト)空港(左・ラウンジ 右・通路)

 

 同じ天井設置型でも、天井に埋め込まずに張り出しているものもある。写真14は天井設置でありながら水平吹きだしとなっている。湾曲した天井の隙間に照明器具が埋め込まれ、所々に円形のディフューザがあり、美しいデザインとなっている。

 

 

写真14 Gävle(イエブレ)市内の銀行ロビー

 

写真15は同様の円形ディフューザが張り出しているものの、これは鉛直吹き出しである。各孔はランダムな方向を向いており、気流の拡散を意図しているようである。ダクト自身も室内に張り出しており、追加で設置したものかもしれない。

 

 

写真15 Gävle(イエブレ)市内のレストラン

 

 

3.水平吹き出しディフューザ

 写真16はいわゆるソックダクトであるが、取り外して洗濯しなければならないことの面倒さを多くの人が指摘していた。写真2に示した小学校と同じであるが、教室によって換気設備が異なり、理由は不明とのことであった。

 

 

写真16 Gävle(イエブレ)郊外の小学校(写真2と同じ小学校で異なる教室)

 

 写真12と同じオフィスでも、違う室では写真17のディフューザが設置されていた。多角形の水平ダクトにランダムな方向を向いた多数の小孔があるタイプで、パンチングメタルのビームディフューザと同じく、無指向性の気流となるだろう。ビームの中心部に吸気ダクトが設置され、左右にダクトが伸びているが、先のソックダクトしかり、均一に吹き出せるだけの抵抗があるのかどうかよく分からない。なお、設計者も同席して見学させてもらったのだが、色んなデザインの部屋を作りたかったので、ちょっと変わったものを入れてみたとの事であった。

 

写真17 Gävle(イエブレ)市内に建設中の工場のオフィス棟

 

 これと同様の意図で、連続せずに分散させたのが写真18のタイプである。

 

 

写真18 Göteborg(イエテボリ)市内のユースホステルの食堂

 

これまでのほとんどのケースでは、暖房は窓下に設置したラジエータが行っており(冷房はほとんど使用されない)、これらのディフューザは純粋に換気設備であることが多いと思われる。

 写真19及び20は冷暖房にも使用している可能性が高いが、通常の水平吹き出しも見られる。写真20は大空間での例であるが、暖房もこれで行うのかどうかについては不明である。

 

    

   写真19 Gävle(イエブレ)駅の待合室    写真20 ヘルシンキ空港カウンタ

 

 

4.座席空調

 現在までのところ、座席空調を見たのは写真21の1例だけである。各座席の座面の下にディフューザがあり、これ以外には換気設備らしきものもなく、空調と換気の両者をこれで賄っているものと考えられる。

写真21 Göteborg(イエテボリ)・市立博物館のホール

 

 

5.その他

 面白い換気設備として、更衣室のロッカー内の換気を行う写真22があった。排気ファンに接続されたダクトが各ロッカーを通っている。設計者も面白いアイデアだと自画自賛していた。

 

写真22 Gävle(イエブレ)市内に建設中の工場・更衣室

 

 

6.おまけ

 スウェーデンでは、エコロジカル・サニテーションやコンポスト・トイレと呼ばれる屎尿分離型のトイレを用いて、屎尿を肥料化することがなされていると以前から聞いており、大変興味を持っていた。これまでどこでも見ることができなかったが、Göteborgで写真23の様にやっと出会えた。これがあったUniversiumというのはUniversityとMuseumを組み合わせた造語で、水族館・植物園・科学館などが一体になった施設であり、建物自体も集成材とガラスの組み合わせが絶妙な美しいものであった。

 このトイレは、スウェーデン各地にあるエコ・ビレッジと呼ばれるサステイナブルであることを目的として住宅建設をしている地区などでは用いられているもの、やはり一般生活では用いられることはほとんど無いとのことで、詳細は後日調べてみたいと思う。

 

  

写真23 Göteborg(イエテボリ)・Universium

 

 

(北欧見聞記・ディフューザ編 終了)