スウェーデン・デンマーク滞在記


建築工学専攻 助手 甲谷寿史(KOTANI, Hisashi)


平成14年度文部科学省在外研究員として、平成15年3月から約1年間スウェーデンとデンマークに滞在する機会を頂き、スウェーデンでは、イエブレ大学(University of Gavle)のCentre for Built Environmentに、デンマークではオールボー大学(Aalborg University)の Department of Building Technology and Structural Engineeringにそれぞれ半年ずつ滞在した。それぞれ半年という短い期間ではあるが、両大学の学生の状況に関してなど、これから留学を考えている方々を念頭において、インターネットで入手できるオフィシャルな内容と違った内容を記したいが、限られた紙面であるため雑駁な内容になる事をご容赦願いたい。

スウェーデン・イエブレ大学1)
 イエブレはストックホルムの北150kmに位置する人口10万人の街である。室内換気の分野で著名なMats Sandberg教授にお世話になった。滞在先の正式名称は、イエブレ大学建築技術学科居住環境センター・兼スウェーデン王立工科大学研究科、というややこしいものであるが、これは設立当初は国立建築研究所であったものが、まずはスウェーデン王立工科大学(KTH)2)の所属となり、その後ここイエブレのローカル大学であるイエブレ大学の所属になったという経緯によるもので、Sandberg先生はKTHの教授であるが「人によって給料の出所とか研究費の出所とかが違って、どこで誰に講義するのかも違っているし、ややこしくて説明するのは難しい」とのことであった。

写真-1 Sandberg先生と筆者 写真-2 居住環境センター実験室


イエブレ大学の学生生活
 イエブレ大学自体には学部学生が多くいるものの、居住環境センターは研究中心の機関であるので、メインの戦力はPh.D studentおよびエンジニア達である。彼らは研究所自身が稼ぐプロジェクト予算と大学本体の予算で雇われており、前者で研究を行い、後者は大学に行って演習などの教育業務を行う。プロジェクト予算が確保できれば、ph.D studentを公募できるということで、留学希望者にとって、生活費を自分で賄う場合は全く問題ないが、そうでない場合はプロジェクト次第である。なお、スウェーデンでは学費は無料である。外国人は、筆者が滞在した時点ではイタリアから来ていたマスターコースの学生と、トルコからの客員研究員の2名のみであったが、短期の客員研究者は多く来訪しているようである。
 ここへの留学を考えた場合、かなり専門的な研究中心のものになるが、他にも阪大とKTHとの交流協定を利用して、KTHの通常のマスターコースの学生として講義を受けながら、研究はイエブレで行うという可能性もある。


写真-3 イエブレにて



イエブレ生活3)
 9月末までの滞在であったが、夏至の頃は夜11時まで明るく、短い夏を逃すまい、とばかりに、皆が外に出てベンチに座ったりしてうろうろしている。夏至を過ぎてから4〜5週間の休暇を取るのが常で、サマーハウスに滞在したり、外国へ遊びに行ったりということで、7月〜8月頭は研究所にもほとんど人がいない。病院も夏休みとのことで、皆が完全にいなくなるわけではないだろうが、「夏には病気にならないように」と友人に笑いながら注意された。極端に言えば、夏には社会活動が停止してしまう、という印象を受けた。イエブレは、基本的には徒歩と自転車で事は足りる静かな街という印象であるものの、週末にはパブに繰り出す若者(?実は筆者も含めて30〜40才代の研究所のメンバーも時折繰り出していた)も多かった。


デンマーク・オールボー大学4)
 オールボーはユトランド半島の北部にあり、コペンハーゲンからは電車で4時間半の人口15万人の北ユラン最大の街である。ここでは、室内気流のCFD 解析で有名なPeter Nielsen教授率いる室内環境グループの中に期限付きで設置されているHybrid Ventilation Centreに滞在し、Per Heiselberg教授にお世話になった。

オールボー大学の学生生活5)
 オールボー大学には全て英語で行われる1年半のディグリープログラム(マスターコース)が多くあり、室内環境グループのコースもその1つである。また交流協定による半年〜1年間のプログラムもあり、多くの留学生がいる。これらは全てInternational Officeがコーディネイトし、大学生活から日常生活に関する詳細なパンフレットなど、非常に充実した体制が整えられている。
 ここでは、学部3.5年、マスター1.5年、ドクター3年の正規課程の学生が多いものの、Ph.D studentでも教育補助のために大学から雇用される学生(ただし3年での学位取得は困難)と、無給であるが3年で学位取得を目指す学生の両者がいる。室内環境グループには、中国、ポーランド、ウクライナ、イラク、メキシコと多くの国からの留学生がいる。現在のマスターコースの場合、希望者が多いため大学全体では申請する外国人のうち約35%しか入学できないとのことである。学費は無料であり、生活費に関しては全てのデンマーク人学生は国からの補助があるが、外国人は奨学金や親からの援助、アルバイトで賄っているとのことであるが、留学生に尋ねたところ、生活にはさほど困っていないとのことであった。またデンマークの大学特有の制度として、デンマーク人のPh.D studentは、原則として半年〜1年間外国で研究を行わねばならないとのことだが、この費用は大学から補助される。


写真-4 オールボー大学の留学生


オールボー生活6)


デンマークには10月から滞在したが、スウェーデンの夏と異なり、冬至のころは15時には暗くなり、またデンマークはどんよりとした晴れの少ないところであるため、多少気分が滅入る。日光を浴びることが少ないために、病気になる人もいると聞き、筆者も来た当初は体が重く感じられた。そのために、いわゆる日焼けサロンが街の至る所にある。オールボーは多少日本より寒いくらいの気候で雪も滅多に降らないので、寒さには困らないが、何せどんよりとした暗さには困った。
 デンマークはビールが有名であり、またオールボーは15万人の街なのにパブが300軒あると言われていて、パブの集まる通りの週末は阪急東通のような賑わいであるが、驚くことに賑わい始めるのは22時過ぎからであり、19時頃はまだ人気がなく、家で食事を済ませて深夜になってから出かけるということのようだ。
写真-5 オールボーの街 写真-6 広場のクリスマスツリー


なお、それぞれの国で、知己の先生を訪問し種々の研究・教育施設を見学する機会も得た。内容は筆者の興味あることに限定されているが、その様子は筆者の所属研究室のウェブサイト7)に掲載しており、これらの状況に関しては分かる範囲でお答えできるので、気軽にお問い合わせ頂きたい。
 末筆ながら、公私ともに貴重な体験をさせていただいた事に関して、関係各位、特に1年間研究室を空ける事によってご迷惑をおかけした相良和伸教授、山中俊夫助教授はじめ建築工学専攻の先生方と職員の皆様に感謝申し上げたい。

1) http://www.hig.se/ http://www.hig.se/tb/iv/forskning/
2) http://www.kth.se/
3) http://www.gavle.se/
4) http://www.auc.dk/
5) http://www.auc.dk/international/index_uk.htm/
6) http://www.aalborg.dk/
7) http://www.arch.eng.osaka-u.ac.jp/~labo4/