【優秀作品】

多田 正治:SEEK SEQUENCE CITY

竹中 むつき:release−母親達の駆け込み寺

【Concept】
 北山。古都京都の歴史からは少し離れた場所。その北山には様々な個性が混在している。植物園・コンサートホール・FM局…。しかしそれらは自己完結し、連続性を生むことはまれである。そこで、地下鉄「北山駅」を中心に視線の連続性をもって都市の魅力を引き出す建築をつくる。くしくも、地下鉄は鉄道の持つ車窓からのながめの連続性を廃すことで、移動機能を追求した結果であり、駅もまたしかりである。今回の計画で駅は視線の流れを多様化する装置にもなる。視線の流れは人の流れを多様化し、動線の多様化は新たな視線の流れを展開する。そして人は都市に対していろいろな方向性を持って解き放たれ る。次に駅を中心に配置された「都市を見る装置」によって人は都市を回遊する。「装置」は 都市を「見る」機能と自身を「見せる」機能によって視覚的連続性と意識的連続性を構築する。これら一連のものでつくられる新しいシークエンスは都市の新しい一面をかいま見せることになるのだ。

【講評】
 京都の北山通りにおける歩行空間の計画である。地下鉄北山駅を中心に通路空間やさまざま装置を配置しており、シーケンスの変化を楽しみながら街を歩かせたいという意図は図面より伝わってくる。しかし、全体構成が図面から伝わりにくいのが残念であるし、曲面状の大屋根や円柱形の展望施設は、そこからの眺めはともかく、周りからの景観としては疑問がわく。さらに欲を言えば、既存施設の活用方策など、都市空間自体のもつ魅力を生かすような提案もほしかった。とはいえ、地下鉄構造物をも開放する大胆なデザインや、限られた時間の中でCGにチャレンジした精神は評価に値するし、図面を縦横に繋いだプ レゼンテーションには迫力があり作者の構成力が感じられる。

【Concept】
 最近ますます声高に叫ばれ、意識されている女性問題。それを受けてか、90年代以降大阪府下でも女性施設の建設が相次いでいる。その多くが施設設置目的として挙げている主なキーワードは女性の文化・教養の向上」「女性の自立」「女性の社会参加・参画」。女性の地位向上を目指す姿勢が背景に窺える。これらのキーワードや、各施設で行われているプログラムを見ていると、意外にその存在を見落とされているのが毎日毎日子供と向き合って狭い世界に閉じこもっている母親達である。 彼女達は子供と1対1(2、3…?)の世界で憂鬱を積もらせているだけではなく、母親同士のシビアな関係や世間が求める「良い母親」像に追いつめられて行き場を失っている。うまく自分を解放できないままにどんどん憂鬱を積もらせていき、一触即発状態の彼女達は、最後の糸が切れると最悪の事態を引き起こしてしまうこともある。そうなる前に…。

【講評】
 子育てに専心するあまり、狭い世界に閉じている母親を救済するための施設の提案であり、対象地である大阪市夕陽丘の地域環境の特徴をよく読んだ上での密度の高い計画がされている。地域に分散した6タイプの施設群(ポイント1〜6)が母親の生活環境を広げていくための役割を分担する。ポイント1〜3は心理治療、情報提供、居場所確保等の機能を担い、いずれも各プログラムに応じた精寧な計画がされており、建物内部の視線や行為のつながりを意識したすきまや断面構成もよくできている。外部空間に対してやや閉鎖的な点が残念である。各施設の役割の特性が形態や空間構成に顕著に現れてもよい。ポイント4〜6は既存の施設や公園であり、講習会の開催や交流を分担する。公園を特に「実世界の井戸端」と位置づけているが、他の施設や場所にも同様の役割が望まれる。また、 母親の社会性の回復は、施設よりも地域全体で支えるものと考えられ、より社会に開いた提案が望まれた。